安価になった旧筐体のパーツを使ってAC準拠の弐寺コンを作りました。
はじめに
2023年10月。beatmania IIDXの古い筐体(通称 旧筐体)が中古市場に数多く流れはじめました。
インターネッツで聞きかじった話ですが、旧筐体を新作(31作目)に移行させるにはゲーセンは50万円もするアップデートキットを導入する必要があるそうで、その費用を捻出できないもしくはするメリットがないと判断したゲーセンが前作(30作目)のサービス終了のタイミングで処分しているようです。
そんなこんなで多数の旧筐体がドナドナされ、好事家に引き取られたり、バラされてヤフオクに出品されたり、(おそらく)産廃として処分されたりしています。
数年前まではコンパネが3~5万円。筐体一式で30~50万円(諸説あり)ほどで売買され、パーツ類のバラ売りはほとんどなかったのですが、最近ではバラ売りが主流となり、1パーツで数千円程度。コンパネ一式で1.5万円前後。筐体にいたっては7~8万円でも買い手がつかないというレベルで値下がりしています。(独り身だったなら旧筐体を買ってた可能性が高い。)
Infinitas用コントローラ(タスコン)と私。
3年前、Arduinoとアスキー製5鍵コンを使用した自作コン作成のエントリを書きました。ありがたいことに引き合いが多くあり計10台ほど作成しました。しかし最近になってアスキーコンの皿パーツ破損などの事象もあり、メンテも含めて設計を見直すタイミングではあるなと考えていました。
新たなタスコン作成の機運ーしかし手元の旧タスコンはどうすっかーと悩んでいたところ、S氏ことSZKさんから「弟者がタスやるから安くタスコン作ってYO」という依頼がありました。これは渡りに船。話し合った結果、ぼくの手元にある旧タスコンをメンテしてSZK弟者に譲り、旧筐体パーツを使用した新タスコンを作ることにしました。その後SZKさんにも旧筐体タスコンも作ることになりました。(巻き込んだ
仕様制定
買っちった。(レコードコースターは20年ほど前にバイト先のゲーセンからもらったやつ)
ざざっと眺めてみました。皿の機構はアスキーコンや専コンと同じフォトインタラプタなのですが、歯車っぽいパーツは金属製で取り付けると皿がやたら重くなる…。センサーはどうも12V駆動らしいので昇圧するのも面倒。なのでスパっと諦めてロータリーエンコーダで作成することにしました。
次に基板を選定します。各種メリット・デメリットはこんな感じ。
・Arduino
◎値段が安い
◯入手経路が豊富
◯なんでもできる(要技能
×取っつきにくい
・Yuancon基板
◯多機能
◯技能不要で流用が可能
×ハーネス作成が面倒
×値段が高い
XX入手経路が限られている
・フェニワン基板
◯多機能
◯入手経路がある
×値段が高い
XXフォトインタラプタの動作
基本的にArduinoを利用します。Yuanconの基板がある人はそれで作成するのもよさそう。フェニワン基板は今回は取り扱いません(ロータリーエンコーダの取り付けはできそうですが)。
材料
・旧筐体の皿土台
今回の主役。必要なのは皿と丸い土台(アクリル+金属)と中心部のフランジなので、それが残っているものを選定。送料込み6,000円程度で落札。かなり汚れていましたが使用は問題ない感じでした。
・鍵盤
採寸したかったので送料込み6,000円程度で落札。新品の半額程度です(スイッチはヘタってますが)。裏面の写真を掲載してる出品者から買いましょう。最悪ランプホルダーがついてきません(一敗)。
皿と鍵盤に付属している四角いデケェパネル(5mm厚アクリル+1mm厚アルミ?)を使った方が底上げとか考えずに済むので楽ではありますが、特に皿は300mm角と無駄にデケェので今回は使用しません。
・ロータリーエンコーダ
今回の準主役。日尼だと2,500円ほどしますがAliexpressなら送料込み1,500円で買えます。Arduinoを使用する場合は600PPR、Yuancon基板の場合は100PPRのものを購入しましょう。軸径は6φです。
・フランジカップリング
皿もしくは旧筐体フランジの固定パーツです。日尼で買うと2つ1,000円。Aliで買うと1つ100円。こちらも6φのものを選びましょう。周囲にM3サイズの穴が4つ空いています(穴-穴16mm)。ネジ切りされていないのでナットで固定します。ネジ切りしてあるのを探しましたが発見できず。
・USB変換/延長ケーブル
USBケーブルを脱着したい人向け。Arduino接続用にMicro USB to USB Type-C(パネルマウント)を購入。Yuancon基板を使う場合はちょん切ってXHコネクタをつけましょう。ケーブル直でも気にならないとか側板の加工が面倒な人はいらないかも。
(以下必要であれば)
・フランジ E69-FBA
ロータリーエンコーダを天板に固定するパーツです。天板ではなく皿土台に固定する場合は不要です。なぜか普通に売ってないorあってもやたら高いのでモノタロウに登録して買いましょう。Aliで探しても全然見つからないんだけどなんでだろう。
・ホールソー 38φ
天板に穴をあけます。ステップドリルとか自在錐とかでもいいのですが、ズレると面倒なので素直に安いホールソーを購入しました。ロータリーエンコーダがドンピシャでハマって気持ちいい。
費用
Arduinoを利用して制作した場合。工具類は省いています。
品名 | 詳細 | 購入先 | 金額 |
旧筐体 皿土台 | 皿+土台+四角パーツ | ヤフオク | 6,000 |
旧筐体 鍵盤 | 三和ボタン+D2MV-01-1C3+バネ50g | ヤフオク | 6,000 |
四角ボタン | オプション用 x4 | Aliexpress | 1,000 |
フランジカップリング | 6φ | Aliexpress | 100 |
ロータリーエンコーダ | 600PPR 6φシャフト | Aliexpress | 1,500 |
USB変換ケーブル | Micro B to Type-C パネルマウント | Aliexpress | 200 |
アクリル+痛コンシート | 鍵盤と皿の底上げ 4mm厚分 | 依頼 ※1 | 3,500 |
ハーネス | ジャンパ線 30cm ※2 | Amazon | 700 |
平型端子 | 187型+250型 | Amazon | 600 |
木材 | 5.5mm厚 900x900mm+カット代 | ホームセンター | 1,000 |
カッティングシート | マットブラック 2m分 | ホームセンター | 800 |
ネジ・ナット | M3とM4 適当に | ホームセンター | 500 |
金折・隅金 | 適当に | ホームセンター | 500 |
Arduino Leonardo | ATmega32U4を搭載したもの | Amazon | 1,500 |
総額 | ¥24,000 |
※2 Yuancon基板用はAliでXHコネクタ付きケーブルが安価に売ってるのでそれを使用。
お値段は自作コン(15Kぐらい)と比較してかなり高くなりましたが、ACと同じパーツというのは嬉しいですね。その気持ちはプライスレス。土台についていた皿が結構キレイで流用できたのはうれしい。皿ガチャで負けると皿代やEMPシート代が発生してしまいさらに高くなる感じです。鍵盤と皿のデケェ土台を流用すると約2万円ぐらい。
設計
ゲーセンに行って筐体に100円入れて鍵盤と皿周りを測定してサイズを決定。今回もIllustratorでそれっぽいAIデータを作りました。
底上げのアクリルと痛コンシートの作成はグラッデンボックスさんにお願いしました。皿土台も鍵盤部と同じだけ底上げする必要があったので260φのアクリルもあわせて手配。ともに厚みは計4mm分。費用は問い合わせてください。アクリルのAIファイルを提示するとスムーズだと思います。
AIファイルは当エントリの最終項においておきます。
組み立て
木材
前回同様ホームセンターで購入/カットしてもらい、天板と側板に穴を開けてボンドと金折で組み立てます。これまで10台近く作ってますし慣れたもんですよ(フフーン)。
自分は5.5mm厚で作成していますがその辺はお好みで。
基本サイズ
・寸法 260x518xH80mm
・木材 5.5mm厚 260x518mm、260x69mm、507x69mm 各2枚
元の土台を使う版
・寸法 300x533xH80mm
・木材 5.5mm厚 300x533mm、300x69mm、522x69mm 各2枚
ロータリーエンコーダ
こいつの取り付けが予想以上に面倒でした…。シャフト長が15mm。その下の太い部分が5mmと高さが合計20mmしかないため、旧筐体皿土台にそのまま取り付けると5mmほど高さが足りません。とりあえず3パターンほど取り付け方法を考えてみました。
アダプターでシャフトを延長する方法。Yuanconはこれ。皿取り付け部分もネジ切りしてあっていい感じ。しかも高さはAC準拠でメンテも容易。見た目がキレイだし動作も良好。すごい。
難点は入手性。またYuanconアダプタは径が皿土台の穴径より2mmほど小さく、エンコーダの位置が皿土台に対して絶対位置になるので取り付けの位置決めや高さ調整がシビア。高さ位置は5mm+1mmのアクリル/金属板を利用した場合はドンピシャですが、今回のように使用しない場合は皿土台の高さを微調整する必要があります。
SZKさんがYuanconの基板とエンコーダを持ち込みで依頼してくれたのでこれで作成。
アダプタがないならーと考えたのがこれ。旧筐体の皿土台を使わない場合は安定。フランジと天板の間に板なりナットなりを噛ませて高さ調整。皿の高さはカップリングの取り付け位置で調整できるので実質無限(それはそれでどうなんだ)。微調整はカップリングと皿の間に紙やワッシャを挟みましょう。
こいつは皿の固定が非常に面倒(エンコーダにフランジ(黒いやつ)取り付け→天板にネジを通す→エンコーダに皿取り付け→裏からナットで固定)で、メンテナンス性も最悪。皿を上からカポっとハメてエンコーダを固定しないパターンならわりと楽ちん(動作は問題ない感じ)。
SZK弟者のは旧筐体皿土台を使用していないためこれで作成。皿土台は木製ピザ皿(S)が250φ 20mm厚で使いやすいです。穴開けして塗装後にフェルトを貼ってやれば皿の動作もバッチリです。
旧筐体フランジの底にカップリングをつけてエンコーダを取り付ける方法。利点は皿の位置と高さが皿土台に対して相対的になるので位置決めが楽なこと。穴開けやサイズもアバウトでOK。皿の調整も皿土台のみで完結します。接点と重量が増えますが使用感は変わりませんでした。
難点は旧筐体フランジの状態に左右されること(だいたい突起部が錆びてる)と、エンコーダが宙ぶらりんになること。固定するには天板裏に板を貼るなど調整が必要となり、メンテナンス性が悪化します。
旧筐体の素材を一番活せる方法だと思います。自分のはこれにしました。
加工は①と②は皿土台とエンコーダの位置決めが手間。③は大きめな穴を1つ開ければいいのでお手軽。③はエンコーダへの負荷が気になりますが、今のところは問題が起きてないのでいいかな、と。
③で作るとこんな感じになります。
Arduinoへスケッチ書き込み
スケッチは Gladuin / iidx-controller を拝借しました。多機能で素晴らしい作りです。感謝。
導入手順は
- Arduino IDE(開発環境)のインストール
- ライブラリのインストール(Bounce2・Lufa)
- Githubからファイルをダウンロード(Code→Download ZIP)
- iidx-controller.inoを実行
- config.hを修正してArduinoに書き込み
となります。Arduino IDEのインストール方法はググってください。ライブラリの導入方法はGitHubのReadmeに記載されてますので省略。Arduinoを接続してもポートが認識しなかったり、スケッチの書き込みが失敗する場合は接続中に何度かリセットを押すといけるようです。
config.hのスケッチは6~33行目を書き換えました。鍵盤部はプレコンの仕様と合致しないキー(ジョイパッドの8番)が割当られているため1行追加。LED制御は被らなければ適当でOK。
static const uint8_t led_pins[] = {
14, // button 1 led
};
// Pins where the buttons are connected to
static const uint8_t button_pins[] = {
2, // button 1
3, // button 2
4, // button 3
5, // button 4
6, // button 5
7, // button 6
8, // button 7
9, //
10, // misc button 1
11, // misc button 2
12, // misc button 3
13 // misc button 4
};
スケッチを書き込んだ後は Config tool というGUIのツールで設定が変更できます。キーボード/ゲームパッドの切り替えや皿のマウス/パッド/ボタン化。あと皿感度も調整可能。便利なのでぜひ導入しておきましょう。設定方法はこちらに記載されています。実行にはPython環境が必要です。
やや脱線しますが、ロータリーエンコーダでタスコンを作成する場合、純正コンのデバイスIDを使用しないとInfinitasでは皿が動作しません。また同じデバイスIDで違う仕様のタスコンをPCに挿すと皿の挙動がおかしくなります。そらまあ同じデバイスで仕様が違うんだからそれはそう。
対処方法はデバイスマネージャでHID準拠ゲームコントローラとUSB入力デバイスをアンインストールして再接続。コンパネ→デバイスとプリンタ→ゲームコントローラの設定→コントローラをダブルクリック→設定→調整→リセットでいけるようです。ArduinoとYuancon基板を併用する場合は注意。
配線
スケッチに書いてあるとおりですが
- エンコーダ:赤VCC、黒GND、緑0、白1
- 7鍵盤:2~8
- Eボタン:10~13 (9は空き)
- ボタンLED:VCC→抵抗→LED+(足長)→LED-(足短)→GNDへ接続
ここまで読んでる方にはいらぬ世話でしょうが、鍵盤のGNDは直列(数珠つなぎ)でOK。LEDは並列化してダイオードもつけたほうがいいのですが、手間もあるのでその辺は適当に。
加工と組み立て
いっちょやってみっか!
天板に穴開け。
側板はUSBマウント穴を開けてからボンドで仮固定。
天板・側板・底板にカッティングシート貼り。
底板はフタにするため四隅近くに隅金三方面をネジ止めして側板との密着具合を調整。
天板と側板を隙間ができないように金折でネジ止めしたらパーツ類を取付。
Arduinoを天板にネジ止めして配線。
…できた!!
(バシバシ…)ちゃんと動く!!!完成!!!!
(自分用のとSZK用の画像が混ざってるけど黙ってたらわからんか…。)
痛コン用の画像はStable Diffusionで出力してチマチマとレタッチしたものです。
使用感など
地味に旧タスコンから鍵盤と皿の位置関係を修正してます。実機を計測して作り直したおかげでACと遜色ないプレイ感が得られるようになりました。目に見えにくいところですが思っていた以上に影響があります。また旧タスコンやフェニワンは軽いため、高難度をガシガシやるとコントローラがズレていってしまうのですが、皿土台と機構が物理的に重たくなったためズレなくなりました。うれしい。
Yuancon基板はARGB対応のLEDを利用して光らせたり調光したりできます。そのまま接続すると最大発光時に皿が反応しなくなりましたが、5Vに数十Ωの抵抗を挟んでやると解決しました。Arduinoでもスケッチを書けばできるのでしょうがそれはまた追々。
最後に
こんな感じでふわっとはじめた旧筐体タスコンの作成でしたが、当初想像していた以上によいものが出来上がりました。とくに皿周りは実機をそのまま使用しただけあって高級感があります。長期間使用した場合はどうなるか不明ですが、現段階では非常に満足しています。
全体図とアクリルパネルのAIデータはこちら。